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随筆:一期一会

あれから一ヶ月と少し経つ。正月以外ずっと遺品整理をし続けている。まだ暫くかかりそうだ。「大変だなぁ」、「いい加減疲れた」、「終わってからも世話のかかる」と思う一方で、「まだ関われる」という安心感もどこかにある。全てが終わると呆ける気持ちが今ならよく分かる。もっとも今回は課題が多いので呆ける暇は無さそうだ。そういう意味では敢えて課題を残すのもアリかもしれないと思ったりもする。

祖母は象徴的だった「しっかりなさいね」と別れ際に良い、それが最後の言葉になった。凛々しい方だった。躾に厳しかったが愛があった。その言葉は私の心に支えになっていった。折れそうな時に過る。「負けてなるものか」と奮起する。君江さんは具体的だった。「先生と会を宜しくね」それは足かせにもなった。彼女を裏切りたくないという気持ちが強かった。私にとって二人はどこか生きて感じられる時期が長かった。ある意味では別れきれていなかった。自分の中で乖離したものを感じたままだったのだろう。

先生は気にしていた。「いい加減忘れなよ」と言われ「軽々には出来ません」と返すと「軽々じゃないよ」と応えた。先生は象徴性と具象性の両面をもって言い続けた。終わらない目標と終わる目標の双方を得られたことになる。長い整理を通し知らず自分の中で心も整理されていく感覚を受ける。改めて物理的整理と心の整理は合致していると理解する。外から見たら或いは無駄にしか思えない行為も私の中では意味があった。今や自分の中では概ね受け止めているフィードバックがある。心身や顕在意識と無意識での乖離が無い。

それでも他人に会う時は緊張を抱く。どう伝えていいか困るから。相手のショックを思うと失語してしまう。多くの場合は伝えないほうがいいと感じられる状況に相手がいる。だから常に現在進行系のような雰囲気で過去形で喋る。すると相手は気づかないで終わる。時が経てば経つほど相手のショックは和らぐだろう。その時を可能な限り待ちたい。いい意味で、振り返るには遅すぎるということもある。でも、中には会ったら言わざるおえない相手もいる。その時は覚悟するしかない。

先生はすごかった。実に簡単に言うのだ。いつもサラっと別れを告げた。「亡くなったって」と唐突に言う。正直に。真剣に。茶化さず、逸らさず、短く。そして有無を言わさず希望に繋げる会話に展開させ、突然〆める。そして「ところでさあ」と今に話題を戻す。ああはいかない。昔からその捌きに驚いていた。「大げさだよ。数こなしているからだよマッチャン」と、何時ぞやは冗談に変換していた。でも「ショックは少ない方がいいからね」と何時も気を使っていた。

日曜日、勤め人時代の友人の写真展に銀座へ顔を出し、そのまま劇団時代の仲間と新年会。かなり疲れており、以前だったらパスしようと思う肉体レベルだったが、あの事があって以来、出向くことを前提に考えている自分がいる。「もう会えないかもしれない」と思う。実際、人の生死はわからないと痛感する。もう二度と会えないかもしれないと思うと、実に様々なことが簡単に許容出来るようになって来た。喧嘩したって全然いい。根底に許容があれば。

昔から当たり前のように言われるけど、こうして生きているということ、何の因果かこうして会っているということは実に奇縁だ。劇団のお仲間などは氏素性といい置かれた状況も全く違う。多様性も甚だしい。それが実に愉快だ。しかも微妙なバランスの上に成り立っている。何かが一つ欠けてもこうならなかっただろう。

感じられるのは実に色々な人生があること。振り返ってみると若い頃に気にしていた努力とか才能とか情熱とか運とか一つ一つは些細なことに思える。先生がよく、限りなくパーフェクトに近いからこそ小さな隙間で一気に崩壊すると言った。そして持ち得た者も大変なんだと。裏を読めば、ガタガタの方が案外バランスは知らずとれたりする。余白が多いからだ。全部ひっくるめた結果「こうなった」と、後からしか言えない。死なない限り幾つになろうが経過なのだろう。「まだわからない」と言える。何せたまたま歯車が合致することは稀にある。当てにしていいものではないが全く当てにならないわけでもない。

先生が2019年10月頃にポソっと、「マッチャンが昔言ったように普通が一番なのかもしれないね」と言った。私がそれを言った時は「そうは思わない」と強く否定され。「それはヤッカミだよ」とすら言われた。究極が「バランス」なら「普通」は最もバランスが取りやすい。極端は身を刻す。何事も余の部分でやる程度がいいのかしれない。「なるようにしかならない」でも、それは「なるようにした」結果でもある。自力をもちつつ、他力を迎える。

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