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オムニバス小説:鶴子-つるこ-#1.証言

脱サラして探偵になった。

手に職をつけたかったからだ。

ブラック企業はもう真っ平。

ほとんど衝動的だったが案外馴染んでいる。

こういう職業をやっていると色々な人がやってくる。

人生色々なんだと毎度考えさせられる。

最も印象的な案件が何かと問われたら間違いなくアレだろう。

”鶴子 ”

女性の捜索を依頼。

偽名だ。

結論から言えば、見つけられなかった。

今でも依頼者の落胆した顔が思い出される。

彼の顔は「絶望」の二字を示していた。

真の絶望を初めて見たかもしれない。

探偵は必要以上に依頼者に入れ込むのは望まれないが、少なからずの影響は今も残っている。失望の縁に落ちても彼の顔を思い出すと立ち直れるのだ。鏡を見て、まだアレ程ではないと。

ショックを受けたのは彼だけじゃない。

我々もだ。

何せウチの事務所は人探しは得意な方。評判を落とした。

この職業で人探しは主たる業務の部類だが、本件は一際異彩を放つ。

「鶴子」案件は今でも社長と当事務所の黒歴史として刻まれている。

依頼者のことはどれもよく覚えている。

彼は思いつめていた。

 

#一.証言

 

人は大なり小なり何かしらの事象に囚われている。

私が囚われているのは「鶴子」という女性。

不思議な女性だった。

今でも夢だったような気さえする。

彼女の人物像を語ると、他人は創作とか、想像上の人物だとか、大袈裟と言って笑う。

口に出した彼女の人物像を客観的に捉えると、彼らの言うことも理解出来る。

それほど不思議な人だった。

頭がおかしいわけではない。

寧ろ、かなりのインテリだろう。

人の生きざまは動きに出る。

 

彼女は現在の風景から明らかに浮いていた。

古風な和服。真紅の染めもの。明るめじゃない。寧ろどす黒い。

昨日や今日、着始めたのではないことは着こなしでピンときた。

馴染んでいる。

とろけたようなタレ目が特徴的。

いつも眠そうな感じ。

実際「眠い」と言っていたし、よく寝ていた。

身長は百五十センチぐらい。

 

会話が成立しているのか成立していないのかよくわからない時がある。

当初は彼女が巧みにはぐらかしているのかと勘ぐったが、彼女なりの会話遊びなんだろうと直ぐわかった。

職業は不明。

付き合っていたのかと問われれば、今でもよくわからなくなる。

ただ、彼女はいつも家にいたし、いつも一緒だった。

少なくとも私は夢中だった。

プロポーズするぐらいには。

 

彼女は何かしらの病気を患っていたことは明らか。

触れられることを極端に嫌う。

痛風とは違うようだが、触れられると「痛い」と言った。

化繊は駄目らしい。

化学物質過敏症なのだろうか?

痛みに耐えかね泣いていることもあった。

なのに病院を頑なに断った。

昔「霞を食って生きている」といった表現を聞いたが、彼女もそうだ。

一度だけ見た彼女の食事シーン。

猫のよう。

味噌汁を舐めていた。

彼女は私に気がつくとニコリとする。

 

痩せた女性だった。

本名はわからない。

最後まで教えてくれなかったから。

「好きなように呼んで。」

彼女はいつもそう言って誤魔化す。

だから「鶴子」と呼ぶことにしたんだ。

彼女はその呼び名を気に入ったように見えた。

鶴を折っていたから。

日がな一日、ずっと。朝から晩まで。

寝ているか折っているか。

理由を訪ねても笑みを浮かべるだけで答えなかった。

最初は何か目的があると思ったが、途中からそうでもないと気づく。

千羽をゆうに超えるほど折っても、まとめることは無かったから。

サイズもバラバラで、部屋にある紙という紙をただ折っていた。

めくり終えたカレンダーを折り、

ポストに投函されたチラシを折り、

包装紙を折り、

折り紙を買って渡せば折り紙を。

器用なのかと思ったらそうでもない。

折りでわかる。

気分で紙を選んでいるようだった。

 

部屋が折り鶴で埋まりそうなほど溜まったある日。

彼女は突然消え、二度と戻ってくることは無かった。

何が悪かったのか、何を間違ったのか、今でもわからない。

彼女の声が、息遣いが思い出される。

 

狂おしいほどに彼女を欲している自分がいる。

 

*

「何がそんなに魅力なのかなぁ~」

「どうした?」

「いや、思い出していたんです。」

「・・・鶴子か」

「ええ」

「俺、まだ暇を見て調べているんです。」

「お前もか!? で、どうだ?」

「さっぱりです」

「やっぱりか・・・こんだけ具体的証言があるのになあ・・・」

「具体的・・・」

 

安藤所長は具体的といったが、実際に彼女の顔写真等があったわけじゃない。

寝姿をとったという写真が1枚あるにはある。

折り鶴に埋もれて眠る女性。

あまりにもアーティスティック。

余りにも美しい。

長い黒髪。

痩せぎすの身体。

でも、顔は半分以上も折り鶴が覆いかぶさっている。

彼の話では顔が映るよう、取り除こうとした瞬間に起きたようだ。

その写真が頭に焼き付いて離れない。

 

「本当に実在してるんですかね? 鶴子さん」

「ま~・・・いるんだろ。何かしらの人物は。」

「彼で五人目ですもんね・・・」

「ああ。」

「鶴子さん・・・か」

「お前も犠牲者になるなよ」

「え? 私がですか。」

「そうだよ。お前、相当入れ込んでいるだろ。」

「所長には言われたくないです。」

「お前ほどじゃないわ。」

私がココに来て、彼女とおぼしき人物の捜索依頼は五人目。

呼び名はいつも微妙に違うのだが、鶴子さんだということは明らか。

魅惑的なタレ目。

真紅の和装。

真っ黒な長髪。

鶴を折り続ける痩せた女性。

凄い美人だそうだ。

彼らは皆、囚われていた。

おわり

Published inオムニバス小説文筆

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